眠りたいのに眠れない「不眠」の悩み

眠りたいのに眠れない「不眠」の悩み

夜、眠りたいのに眠れない。夜中や早朝に目が覚める。
加齢とともに表れる「睡眠の悩み」を抱えている中高年は多いようです。
50代以上になると何らかの睡眠トラブルを抱える人は増加の傾向にあります。
なぜ眠れないのか、どうしたら眠れるか、
睡眠障害の専門医でもある広島大学病院精神科の山下英尚先生に、
考えられる主な原因と対処法についてお話しを伺いました。


4つに分類される不眠症の主な症状

不眠症は、①なかなか寝付けない「入眠障害」、②睡眠中に目が覚める「中途覚醒」、③朝早く目が覚める「早朝覚醒」、④熟睡感が得られない「熟眠障害」の4タイプに分けることができます。このうち「入眠障害」は若い方にも多い症状ですが、総じて中高年以上の割合が高いのが特徴です。
また、これらの症状は1人に1つというわけではなく、人によっては「入眠障害」も「中途覚醒」も、あるいは「早朝覚醒」もといったように、複数のタイプを伴っている場合もあります。さらに、「一過性不眠(数日間)」「短期不眠(1〜3週間)」「長期不眠(1ヶ月以上)」という期間によっても分類されます。
まずは、自分が4つのうちどのタイプに当てはまるのかを知ることから始めましょう。


なぜ不眠になるのか

個人差はあるにせよ、ほぼ全ての人は加齢によって眠りの質が低下します。眠れる時間が少なくなるのです。これは健康であっても関係ありません。そして、眠れる時間が少なくなっているのに、多くの人は若い頃と同じようにたっぷり眠りたいと考えます。だから眠れず、不眠になってしまうのです。また、若い人が遅寝遅起きがちなのに対して、中高年は早寝早起きになります。理由は体内時計の睡眠のタイミングが若い頃より早まっているからです。しかし、早く寝すぎるとそれだけ早く目が覚めてしまいます。そうした時には「遅寝早起き」を心がけるようにしましょう。それから、不眠の原因は以下の5種類に分けることもできます。ストレス、喪失体験などの「心理学的原因」、睡眠時無呼吸症候群、疼痛性疾患、発熱性疾患、痒みを伴う状態、腫瘍などの「身体的原因」、うつ病などの「精神医学的要因」、アルコール、カフェイン、ステロイド、甲状腺剤、抗がん剤、降圧剤などの「薬理学的原因」、時差ぼけ、交代勤務、短期の入院などの「生理学的原因」です。不眠の原因が明確であれば、それを取り除く治療を行うわけですが、最初は何らかの原因があったとしても、不眠が続くうち、「眠れないことが眠れないことの原因」になることも少なくありません。「どうして眠れないのだろう」という不安や心配が、脳を覚醒させてしまうからです。


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日本における不眠症状の割合

日本における不眠症状の割合
日本人の3人に1人が、少なくとも1つ以上の不眠症状※を感じており、入眠困難が14.9%、睡眠維持困難が26.6%、早朝覚醒が11.7%であった。

【方法】2009年8月〜9月に日本大学睡眠とメンタルヘルス疫学プロジェクト(NUSMEP)の一環として行われ、20歳以上の成人をランダムに抽出し、2,559人に身体および精神的健康と睡眠障害について対面によるインタビューを行った。
※:入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒

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不眠症と病気の関係

不眠になると、疲れやすい、集中力がなくなる、意欲が湧かないといった支障をきたし、それが続けばうつ病などの精神疾患に罹りやすくなります。また、高血圧、高脂血症、糖尿病などの慢性的な生活習慣病にも罹りやすいとされています。これらの疾患リスクを下げるためにも、不眠が長引く場合は早めに医療機関を受診しましょう。この他、特に中高年に多いのが睡眠時無呼吸症候群です。加齢による喉周りの筋力低下も大きな原因であるこの症状は、眠りが細切れになるため中途覚醒や熟眠障害を起こしやすくなります。現在では自宅でも、指先に付けたセンサーで血中の酸素濃度を測ったりする簡易PSG検査を行うことができますが、医療機関ではさらに詳しく脳波と不眠の関係を検査することが可能です。
このように、不眠は様々な病気と無関係ではありません。そして、不眠の原因がその他の疾病にあるならば、まずはそちらを治療していくことが先決です。


不眠症を改善するために

まずは「睡眠衛生指導」と呼ばれる以下の項目の改善に努めてください。より良い眠りのための指針となるものです。

①サーカディアンリズムを維持・強化する。
毎朝同じ時刻に起床し、太陽の光を取り入れ、3食リズムよく食べる。

②ライフスタイルを見直す。
睡眠不足に注意するなど生活リズムを見直し、夕方以降の精神的興奮や激しい運動は避ける。

③嗜好品に注意する。
就寝前4時間のカフェイン摂取や就寝前1時間の喫煙を避け、寝酒もしない。

④寝室環境を快適にする。
明るさ、音、温度、湿度、換気を調節し、部屋の模様替えをしたりする。

⑤睡眠にこだわりすぎない。
無理に眠ろうとせず、眠たくなってから床につく。眠れない時や夜中に目が覚めた時は一度寝床から離れる。夜中に目が覚めても時刻を確認しない。


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病院での治療と流れ

医療機関ではまず、前述した不眠のタイプや不眠になってからの期間などを問診し、症状を把握します。生活習慣の見直しが難しい方がほとんどなので、まずは全ての方に生活指導を行っていきます。それでも改善が見られない場合、薬物療法も併用します。下記に主な薬の種類を記しますが、それぞれの不眠の状態に合わせて処方していくことになります。仮に薬物療法でも改善しなければ、最初の診断の再確認を行います。不眠の誘因となる別の疾患があったり、不眠症以外の睡眠障害という場合もあるからです。また、さらに専門的な「認知行動療法」という療法もありますが、これは保険適応外であるうえ、国内のごく限られた医療機関でしか実施していません。


心地よい眠りのために

更年期頃までは男性が、更年期以降は女性の方が不眠に悩まされることが多くなる傾向にありますが、中高年の男女ともに特に気をつけていただきたいのが寝酒です。体のことも考え、お酒の量はほどほどにしましょう。そして先に述べたように、人間の体は若い頃と同じくらい長くは眠れなくなっていくのだということを知ってください。20歳の頃と同じように…その考えが、布団の中で鬱々と思い悩む時間を作ってしまい、不眠へと繋がっていくのです。まずは眠れない原因を見つめ、現在の生活を見直しましょう。健やかな眠りは、その先に待っているかもしれません。


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● 不眠症治療薬の種類と特徴 ●

ベンゾジアゼピン受容体作動薬(GABA受容体作動薬)
脳の興奮を抑える生体内物質GABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを促し、脳を休ませ眠りへと導きます。以前からある睡眠薬です。安全性も高く、効きもほどほどに強い。

メラトニン受容体作動薬
夜になると活発になる脳内のメラトニン受容体に作用し、体内時計を調節することで体を覚醒状態から睡眠状態へと切り替えます。わりと新しい薬です。安全性は高いが効きは弱め。

オレキシン受容体拮抗薬
脳の覚醒維持に関わる神経伝達物質オレキシン。その活動をブロックすることで脳の過剰な覚醒状態を抑え、睡眠へと導きます。わりと新しい薬です。安全性は高いが効きは弱め。


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【 睡眠トリビア 】

19~21時頃は眠れない時間
健康な人の眠気にはピークがあり、15〜16時頃と22時頃に眠くなります。つまり、昼ご飯を食べた後に眠くなったり、夜遅くなると眠くなるのはごく自然のことです。一方で、眠気が最も強くなる直前の19~21時頃は眠気が非常に少なくなります。この時間帯は「睡眠禁止帯」と呼ばれ、1日のうちで最も眠りにくい時間帯として知られています。この時間帯は頭が冴えているので、どんなに寝ようとしてもなかなか眠りに入ることができません。早起きするために一刻も早く眠りたい時でも、この睡眠禁止帯に無理に眠ろうとしない方が賢明です。

快眠には「手足の冷え」は大敵
「冷え」は肩こりや腰痛、むくみ、便秘などの不調だけでなく、不眠にも関係しています。人の体温には1日を通してリズムがあり、眠りとの関係も深いことがわかっています。日中を活動的に過ごすことで体温は上昇しますが、夜になると体にたまった熱を下げるために手や足先の血管を拡張させて血流量を増やし、熱を放出します。この時に眠気が出てきて、身体は眠りの体勢に入っていきます。冷え性の方が眠りにくいのはこの熱の放出がうまくいかないためです。手足の冷えを解消して眠りやすくするためには40℃前後のぬるめのお風呂でゆっくり半身浴をするとよいでしょう。これによって、手足の血管が拡張して血液の流れがよくなり、熱を放出しやすくなり、良い睡眠を得られやすくなります。また、眠るときに湯たんぽなどで足を温めることもいいでしょう。


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山下英尚先生
広島大学病院 精神科
山下英尚先生

[Prpfile]
専門分野:睡眠障害、老年期うつ病、認知症
●日本精神神経学会精神科専門医・指導医
●日本総合病院精神医学会
 一般病院連携精神医学専門医・指導医
●日本老年精神医学会専門医・会指導医
●精神保健指定医
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